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今の世の中、善人ではやってられない 映画「サヴェージ・ウーマン 美しき制裁」感想

今の世相を切ったサスペンススリラーです

youtu.be

 

<あらすじ>

最近夫を殺されて未亡人になったサラ(サラ・ボルジャー)

息子がその殺人現場を見てしまい、口がきけなくなっている

警察に助けを求めても犯罪者同士のイザコザだと

みなして何もしてくれない

そんな時、彼女の家に麻薬と売人チトーが突然押しかけて来て…

<感想>

イギリスを舞台にした「オデッセイ」の翻案です

イギリスなのは通貨がポンド、出て来る車が

右ハンドルからわかります

 

まずOP、血まみれのサラのシーンから

街の景色が空撮される

そこで流れる不穏なBGM

この映画、終始流れるBGMはほぼ不穏です

 

場面が変わってスーパー、サラの正面からのショット

表情に生気が無くてヘロヘロ

 

子供がうっかりお菓子を食べてしまったのを

男の店員が見逃さず、そのせいでサラは本当は

欲しい買い物を諦めるしかなくなる

 

自宅に戻って子供を寝かしつけ

サラがムラムラしたようで、自分を慰めようと

ある電動器具を使おうとするけど電気切れ

別の電化製品から電池を抜かなければならないほど

生活が困窮している

 

母親とたまに会っているらしくそこで

母親が「もっとズルくならなきゃ、損するわ」ってセリフ

この映画のテーマなんですよねー

 

チンピラのチトーが押しかけて来て

ヤクの隠し場所としてサラの家を利用します

結果として彼女は悪事に加担することになりますが

チトーは分け前を寄こしてくれる

 

そのお金で普段買えなかった食品やDVDを買う事が出来て

家族は楽しく過ごす事が出来る様になった

悪徳を為す事でいい思いをする

 

またチトーが来た時、今度はサラはドアを開けない

子供が間違ってヤクを見つけてまき散らしてしまったので

入れたくないけど、チトーは窓を破って侵入

 

サラに暴行しようとしますが、ここでサラは

自分の大人のおもちゃを使ってチトーの片目を潰して

それから殺します

 

近所から騒ぎがあったという通報で警察が

家に入りますが、終始不愉快で不親切で鼻っからあてに

出来ない、この映画に出て来る男性キャラは全員嫌な奴で

親切にしてくれるのはスーパーの女性店員とかなので

フェミニズム的側面もありますね

 

それとドアをノックするシーンが何度もあるんですけど

もうノックの音を聞くたびに不快になりますね

これは明らかに意図して演出してますね

 

ギャングのボスがやたら独裁者を褒めたたえるのは

彼らはたしかに邪悪だったけど

同時に国をよく統治していた事を説明している

善人だったらああはいかなかっただろうと

 

ギャングのボスは怪我をするのがわかっているのに

素手で人を殴り、それを医者に診せた時「オナニーで怪我した」

と嘘をつくほど野蛮な男

 

サラはチトーを殺して一線を越えてしまいますが

死体の処理に困ります

そこで冒頭のスーパーに出て来た肉切り包丁をヒントにして

死体を解体する

解体した時に浴びた返り血をシャワーで洗い流しますが

 

ここでOPのサラのシーンとつながります

洗い流した血が排水口に流れるのはもう後戻り

出来ない事を念押ししていると同時に「悪の洗礼」を自分に

施している

 

母親との会話で、母が父とは「打算で結婚した」事を明かします

「情はあったけど、愛してなかった」

つまり「ズルをしていた」

 

チトーを追って来たギャングに見つかって息子が

ギャングのボスを見ますが、彼は父親が殺された恐怖が

蘇った事で声を取り戻す

 

そして追い詰められたサラが、チトーが持っていた

銃を死体頭部に隠してギャング達と対峙

ギャングを撃ち殺す、へっぴり腰だけど

ここでサラも恐怖を体験したことで

息子が声を取り戻したように、生の活力を取り戻す

 

ボスにトドメを刺したのち、死に損なったギャングがいたので

彼女はボスが使っていたハンマーでトドメを刺す

ここでサラはギャングのボスから野蛮(サヴェージ)を継承する

だから邦題は「サヴェージ・ウーマン」なんですね

 

そしてラストシーン、冒頭のスーパーに戻ってますが

今度は後方からのショット

 

髪型も変わって以前とは別の人間に成長しています

また意地悪な男店員がセクハラをしますが

ここでサラは言ってもいない事で告発するぞと脅してズルをします

 

スーパーを出るサラ一家、街の全景が空撮されて

今までとは違う軽快なBGMが流れ

スタッフロールの最後に映画の原題「A GOOD WOMAN IS HARD TO FIND」

が出て来る

 

タイトルの意味は「善人の女性を見つけるのは難しいよ、今の世の中じゃ」

ってことで、野蛮になって悪事を働きでもしないと

不幸になるだけだよって呼びかけている危険な映画ですよね

 

いちばん最後まで見て欲しいのは

本当に最後、サラのアップが写されていて

彼女の顔に生気がみなぎっているんですよね

 

何度もしつこく街の全景が空撮されているのは

「ズルをして私もいい思いをしたいって思っている人

サラの他にもいっぱいいるよね?」っていう事ですよね

 

DVDのジャケットが詐欺だとか言っている人が

いますが、詐欺ではありません

サラが何かのエージェントっぽい

コスチュームなのは、彼女が殺人と死体を遺棄

したという秘密を抱えているから彼女はスパイ

つまりエージェントって事なのです

 

<「オデッセイ」って何?>

「オデッセイ」はギリシャ神話で

神の末裔オデッセウスが、故郷を出て試練を経験し

一つ目巨人サイクロプスを倒し、故郷に帰るが

以前とは別の存在になり、故郷を荒らしていた

連中を一掃するという内容で、感想で書いたように

チトーは一つ目のサイクロプス、ギャングは故郷(自分が住んでいる街)

を荒らす連中でオデッセウスがサラ

 

故郷に戻った事をスーパーに見立てているからOPとラストシーンが

スーパーになっていて、「行きて帰りし物語」になっている

サラの髪型が変わっていて顔に生気がみなぎっているのは、彼女がOPと

別の存在に成長しているから

 

ギャングのボスに夫を殺した訳を問いただすと

「俺たちの仕事を邪魔したからだ!善きサマリア人かよ!」と

「古典からの引用」をすることからもわかるとおり

この映画自体が古典の翻案だというネタ晴らしだったんですね