一定の周期で出現する、体験してしまったらその前の
自分にはもう戻れない系の超巨大なコンテンツです
作:諌山創
<あらすじ>
人類は突如出現した「巨人」により滅亡の淵に立たされた
人類は調査兵団を派遣し巨人の調査に向かわせるが…
<感想>
なんというかこの漫画、最初から
凄くて、とにかく残酷表現が容赦ないんですよ
人を喰らう巨人がもう本当に怖くて気持ち悪くて
読む国によっては巨人や壁がいろいろな存在に
見えて、国や時代を超えた普遍性を獲得してますね
そこらへんは日本のみならず、世界中の人達
言ってしまうと二十一世紀に生きている全人類への
メッセージを送ってますね
作品の中にいろいろな要素が詰め込まれていて
巨人は怪獣でありロボット物である
立体機動装置はアクションを魅せる為
まあ相手が巨人ですから高く飛翔しないと
いけませんからね
アニメ版では立体機動装置のアクションシーンが映えますね
巨人が人を喰らうのはスプラッターとホラー
まあ既に指摘されているでしょうけど
「我が子を食らうサトゥルヌス」を参考にしてますね
巨人の正体とは?地下室の先にあるものは?
仲間の中に敵のスパイがいるといって点は
ミステリー要素で
物凄い重要なセリフをキャラがボソッと喋って
「え?何言ってんの?」って驚かせる
ヒストリアが女王になってシガンシナ区を奪回して
そして、エレン達が海を見る辺りで終了させておけば
「グロイ描写のある、ちょっとねじくれた少年の成長物語」に
収まっていたのかも知れませんよね?
ゲーム「タクティクスオウガ」みたいに
「自分の住んでいる場所が大陸だと思っていたら、実は島だった」とか
「タクティクスオウガ」も大概地獄ですけどね(;'∀')
しかし、そうはならない
というかそうはしないしさせない、という諌山先生の
熱意と言うかなんというか
インタビューかなんかで「読者を傷つけたい」と
言っているので
読者を逃がさない、この漫画を読む以上は
もちろん漫画の中のキャラクターも逃がさない
登場人物のほとんどが手を汚すんですよ
というかそうせざるを得ない状況にいつも
追い込まれていて、「どうしてこうなった!」って
台詞がもう何度も何度も出て来る
もう血まみれ、あのアルミンでさえも
これは「人として生きる限り、無垢ではいられない」
という表現で、子供時代を奪われていきなり
「大人」に「巨人」にさせられる
「僕にその手を汚せと言うのか(タクティクスオウガ)」
エレン達側からの話をした後
「海の向こう側の話」に変わる
ここを丹念に描写していって
「悪魔だと思っていた奴らは、自分達と同じ人間で
しかも悪魔呼ばわりされて迫害されていた!」という
容赦ない描写(抑圧の移譲)
そして巨人は兵器で、近代化の波に押され気味
ここらへんで巨人があまり怖く見えなくなるんですけど
それは読者である我々が彼らの正体がわかったから、理解したから
「悪い奴をやっつけてお話は終わり!いい最終回だった!」
じゃないんですよね
相手側にもやむにやまれぬ事情があるのを描いて
から、エレン達が攻め込んできて
そこから相手側の子供が自分達の仲間を、そこまで
の話で読者に散々感情移入させていたキャラを「殺す」
ここは「報復の連鎖」で、仲間を殺されて怒り狂うと
同時に「この地獄はいつ終わるんだ」と絶望する
ここでもまた「どうしてこうなった!」
もうここらへんからエンタメ作品では無くなって
いくんですけど、それでいいんです
優れた表現はそういう物を突き破りますので
もはや「少年漫画」ですら無くなっていきますし…
世代によってこういった
「一度体験してしまったら、もう前の自分には戻れない」
作品って一定周期で出現していて、昭和なら「デビルマン」
平成なら「寄生獣」があります
そしてエレンの絶望
ヒストリアの手に口づけをした時に
「未来をみる能力」で避けられない未来を見てしまい
誰にも相談出来ず、孤独になって追い詰められる
そこから「地ならし」のシーン
ここまで読んで来たならどうしても
「やっちゃえ!エレン!」ってなりますよねー(-_-;)
私もこのシーン、何度も見返して黒い喜びを味わいました
エレンの「壁の外で人類が生きていると知ってオレはガッカリした」
という絶望
「そこに行けば何かがある」と期待してハシゴを外された
事がある人、二十一世紀を生きているのなら大概の人は
味わっているはず
「地ならし」は大量殺戮兵器で、もちろん核兵器
のメタファーで本当に情け容赦ない
ここで、結果として人類の8割を殺戮しますが
これは結局は時間稼ぎで
それだけ殺せば流石にしばらくは復興に力を
注がねばならないから、人は当分は争わないだろうという
過剰ながらもうなずける考えで、漫画やSFでは
何度か出て来ています
古いゲームですが、私は「スプリガンmk2」を
思い出しました
いまなら「PCエンジン mini」に収録されています
このゲームストーリーでは、増え過ぎた
人類の「人口減らし」の為に大量殺戮をしますが
あくまでも人類という種を存続させるために
そんなヒドイ事をするんですよね…
「地ならし」のシーンがいいのは
これが「暴力の上に築かれた、ある種清浄な世界」で
子供に戻ったエレンが本当に楽しそうに無邪気に笑う
「あ、俺今ヤバい漫画見てる」ってゾクゾクするんですよ(;^ω^)
ここからかつて仲間だった人達が
「それでも虐殺は良くないよ」ってエレンを阻止しようとする
正直エルディア人以外全員滅亡してもいいじゃんとか
思ってしまうのは、もちろん作者と編集者によって
巧みに誘導されているのは分かっていますが
論理的というかなんというか理由があって
仮にエルディア人以外全滅させたとして
エルディア人のみの世界になっても、どうせそこで
また差別や争いが起こるに決まっている
何故なら、そこに居るのは人間だから
なので阻止する
ここまで、実はエレンに計画があって自分が
人類史に残る大量殺戮者になり、それをアルミンが
倒すという物語の為の演出、物語の決着をつけるのは
アルミンだったという展開
少年漫画という枠を、エンタメという「壁」を超えて
はるか遠いところまで行ってしまう
最後にエレンにトドメを刺す、というか介錯するのは
ミカサなんですよね
まあミカサ以外考えられませんからね…
エレンは未来を見えてしまう能力があるが
それは完璧なものではないので、全てはミカサ次第
人類の命運を一人の女性が決める
そして始祖ユミルを開放し、フリッツ王という「父」が生み出した
「世界を書き換える」という神話的な最期
<「新世界より」との相似、同時代性>
思い出しましたね
「新世界より」の舞台は1千年後の日本で
そこで人々は注連縄に囲まれた集落で
「バケネズミ」という生物を使役して生活していた
主人公は注連縄の「外」に出かけて
そこで自分たちの住む世界の真実を知ってしまい…
詳しい内容は各自で確認してもらうとして
大まかな点は共通しているんですよ
これはパクリとかじゃなくて
この小説の発表が2008年で、進撃の巨人が2009年なので
内容が相似しているのは同時代性ですね
進撃の第1話のタイトルが「二千年後の君へ」
新世界よりが一千年後の人達へ書き綴った本だったという
内容で、終わりの言葉が「想像力こそが、すべてを変える」
両作品とも未来に向けたみたいになってますけど
もちろん現代に生きる、作品を読んでくれている
人達へのメッセージですよね
<終わりに>
漫画は2021年4月に連載終了で
連載版のラストと単行本版のラスト、実は
少し違っていて、加筆されています
エレン達の時代が終わって
復興が始まり、それから〇〇が起こって…
ここは自分の目で確かめてください
「わかっているけど、それでも描かずにはいられない」
表現者の苦悩というか叫びを
2022年、みなさんご存じのとおり
2月にロシアによるウクライナ侵攻が
あってやるせなくなりますが、もしプーチン大統領が
この漫画を侵攻前に読んでいたらどうなって
いたでしょうか?なんて考えちゃいます
正直諌山先生が心配になって来てて
ここまでの漫画を世に送り出してしまったら
あと何も残っていないですよね?
全部デビルマンみたいな話になってしまう
みたいな
もう本人が全部出し切ったと言っているとしたら
引退させてあげてもいいと思うんですけどね(-_-;)
二十一世紀に生きる全人類へのメッセージ
すごい熱量の表現が34巻まで続くので
年末年始にお時間がある方はこれを機会に
一気読みすることをおススメします\(^o^)/