30年以上前に発表された岡崎京子先生の漫画の感想です
<あらすじ>
主人公ユミは昼間はOL、夜は飼っているワニの
エサ代を稼ぐためにホテトル嬢をしていた
継母の愛人で大学生のハルヲと付き合い始めるが
それが継母にバレてしまい、ワニがさらわれて…
<感想>
まず、本編が始まる前に
「さあ、はじまり、はじまり でも一体 何が?」
って文章があって「?」てなる
これは時代の空気が分からないと「?」なので
私なりに解説してみますと
ある時代が終わっちゃったんですよ
前の世代は学生運動があって、科学が
明るい未来を作るという幻想もあったけど
陰惨な最期を迎えて、科学技術は公害や
核兵器を生み出し、必ずしも良きものでは無く
それまで信じられていた、信じる事が出来た
未来は無くなっちゃったんですよね
そして日本では86年の「プラザ合意」によって
バブル景気に浮かれている
という前提でこの漫画を読んでもらう必要があります
主人公のユミは、実の母親を亡くしていて
彼女は母親の事が好きだった
やさしくてきれいだった
お母さんはピンク色の爪をしていたのでユミは
ピンクが好きで「あたしのしあわせのいろ」って
言っている
彼女の母親は「かつて信じられていた未来」の象徴で
だから死んでる(失われている)
ピンクはその時代の郷愁
継母が嫌いなのは、彼女が拝金主義の象徴で
現実にごまんといる現実の親の象徴でもあって
だから後半ユミにバットでぶん殴られる
大学生のハルヲと同居する事になるんだけど
恋愛関係という感じでは始まらなくて
かなりあっけらかんとセックスをして
そこまでの過程をすっ飛ばすんですけど
ここらへんは生々しくて
このひと昔前の少女漫画とは一線を画してます
「女」がそのまんま出て来るんですよね
で、ユミはこの生活が気に入ってるんですが
また物凄く軽いノリで「お客をいっぱいとった」
っていう台詞が出て来て、そのお金で伊勢丹に行って
いっぱい買い物をする
ここらへん、バブルの空気を表現していて
大量消費を楽しむんですよね彼女
ハルヲは小説家になろうとしていて
上手く書けないんですけど
他人の小説の文章を切り貼りして(いわゆるサンプリング)
出来た小説が賞をもらい(ここで、いちばん賞金額が高い賞を
狙って応募するのも拝金主義)一躍時の人に
なるのは「もう新しい表現なんて無い」って事を言っている
そしてユミが飼っているワニ
これはいったいなんなんでしょうか?
おそらく彼女の欲望で、「お前は私のスリルとサスペンス」
と言っているのは、ワニにエサを喰わせる行為が
ユミの消費することによって得られる快楽のメタファーなんでしょう
ワニがさらわれてユミがため息ばかりついて
いるのは、消費による快楽でごまかしていた
日常や社会がくだらない事を「思い出して」しまったから
ハルヲが小説で賞を取って、その賞金で
ユミが南の島に行きたいと言い出すのは
もうこの社会が嫌だから、とにかく「ここではないどこか」に
行きたいんですね
だけど、それはかなわない
継母が愛人であるハルヲを奪われ
自分の老いを自覚し(若さ至上主義と見た目重視社会)
「恐怖した」継母は、ユミのワニをバッグやトランクに変えてしまう
要するにブランド品にされてしまう
これは、ユミの欲望がまんま消費社会の象徴であるブランド品に
変えられてしまうんですよね
だからミサは継母のところに行って
彼女をバットでぶん殴るんですが
ここは前の世代に対する「お前らのせいでこうなったんだ!」という怒り
そこで継母が反論して「あんたが大好きであたしが大嫌いなワニ」と叫ぶ
ここは継母が「かつて信じられていた様に見える母親像」と「団塊の世代」で
ユミが「自分の事ばかり考えて(いる様に見える)団塊ジュニア世代」の
「埋まらない溝」を表現していて、かろうじて継母の娘のケイコが止めて
「こんな業の深いやなオンナでも」と自分の母親に言うのはケイコ=ユミだから
で、最後ユミはハルヲと一緒に南の島にいこうと
するけど、もちろん行けない
ハルヲが仕事を終えてユミに会いに行こうとするけど
週刊誌の記者が、彼女がホテトル嬢をやっていた
事についてハルヲがキレて
「るせー!!バーロー のびのびジーンズはきやがって」と
蹴りを入れる
ここの「のびのびジーンズ野郎」は、要するに学生運動に挫折して
マスメディアという体制側に寝返った世代で
蹴られたあとに「やったぜスクープ!!」と喜ぶのは
完全に売り上げ至上主義、成果主義の「資本主義の豚」そのもの
ハルヲは交通事故で帰らぬ人となり
そんなことも知らずにユミは南の島での幸福を
想像して幸せそうにすまして、ニューシネマっぽい
終了の仕方をします
30年前に描かれたこの漫画を読んで見ると
景気が良くってまだ消費でごまかしていたけど
ワニを奪われた途端、ミサを虚無が襲って来て
泣きだしちゃうのは本当に「何も始まっていない、はじめられない」
行き止まりで、岡崎先生のポップな絵柄が無ければ
読了出来ないくらい空虚な時代だったんだなと
本当に金とそれを消費することしか出来なくて
それ以外なんにも無かったんだなーと
で、現在ですが日本て金無くなっちゃったんですよね😅
だから消費することで虚無や社会問題を
誤魔化せなくて、それが全部剥き出しになっている状況で
私としては肩をすくめるくらいしか出来ません🤪
昔の漫画ですが、バブル絶頂期の虚無を
味わう事が出来て、ポップな絵柄も古びていないので
おススメです\(^o^)/