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「許し」と「解放」、美しく昇華される同性愛 映画「戦場のメリークリスマス」感想(1983年公開)

 太平洋戦争下の、ジャワ島の捕虜収容所を舞台にした映画の感想です。

 

監督:大島渚

主演:デヴィッド・ボウイ坂本龍一ビートたけし

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<あらすじ>

 1942年、日本統治下のジャワ島にある捕虜収容所そこにイギリス人捕虜ジャック・セリアズ(デヴィッド・ボウイ)がやって来るが、陸軍大尉ヨノイ(坂本龍一)は、彼に魅せられていく。

 

<感想>

 映画の公開が、1983年と結構昔なので「みんな若いなー」とか「あっ、内藤剛志さん出ている!」とか、若干のノスタルジーを感じちゃいます(^^ゞ

 

 日本統治下のジャワ島という舞台で、日本軍とその捕虜たちとの対立というか「文明の衝突による悲劇」が描かれますが、それを縦軸とすれば、横軸はハラ軍曹(ビートたけし)とローレンス中佐(トム・コンティ)ヨノイとジャックの関係性を描いています。

 

<ヨノイとジャック>

 ヨノイがジャックと初めて対面するシーンでカメラがヨノイにズームされるのは、ヨノイがジャックに懸想というか「一目惚れ」の様な感情を持ってしまった事を表していて、それからジャックが拷問を受けた事を証明するために服を脱いで背中を見せる時、明らかにヨノイは動揺する。

 

 たぶん自分の反応というか、感情を持て余しているんですね。

 

 ジャックは「掃射のジャック」と呼ばれているらしく銃を男根の象徴としてみれば、やはりそこにエロスを感じないわけにもいかず、ヨノイもヨノイで自分の持て余した感情の行き場を、真剣を使った稽古で昇華させようとしている。

 

 劇中ヨノイの過去が明かされて、彼は1936年の「2.26事件」に参加出来なかった、つまり「死にそびれた男」

ja.wikipedia.org

 ジャックもジャックで、彼がイギリスでの生活を振り返り、そこで弟がいて、彼を学校でのイジメから守れなかった事を悔い、死に場所を探している。

 

 「掃射のジャック」と呼ばれ、戦場では勇敢な兵士だったのも、実は死にたがりの結果で捕虜として捕らわれている時に見せる奇行も彼は、処刑される事で「解放されたいから」

 

 「同じ(トートロジー)」なんですね。

 

 そして終盤、ジャックがおそらくヨノイに本能的に自分と同じものを見て、仲間を守る為にヨノイに近づき、キスをする。ここは、ヨノイはジャックにキスされる事で

自分の同性愛を自覚し「解放された」事を示している。

 

 生き埋めになり、仲間が励ます為に歌を歌うけどジャックにとってはそれは葬送曲の様に響く。

 

 ヨノイは、死亡したジャックの髪を切り取り持ち帰り形見にして、終戦後処刑される事が最後わかるのですが、ジャックの死を見届けた時点で彼の人生は終わっているんです。

 

<ハラとローレンス>

 ハラとローレンスの関係性は「東洋と西洋の文明」を象徴していて、ハラは基本粗暴な軍曹で太平洋戦争の帝国軍人あるあるみたいなキャラクター。

 

 ローレンスはこの映画の元になった短編集「影の獄にて」を書いた南アフリカの作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストがモデルなので、彼の体験談がこの映画ということ。

 

 なので、西洋人(近代文明人)から我々日本人がどういう風に見えるのかという役割。

 

 劇中、ジャックとローレンスは冤罪で一時死刑になりかけるも、ハラは自分に落ち度がある事を認め「ローレンス、メリークリスマス!」と言う。

 

 ここで、まず一度目のクリスマスプレゼントですがここは「私のミスを許してね」という意味で言っていて。

 

 最後1946年、日本が戦争に敗けてハラが戦争時にした行いの報いで明日死刑になる時にハラに呼ばれたローレンスが会いに来る。

 

 立場上ハラを救えないローレンスに対して英語を少し話せる様になっていた(敵国の事を理解した)二度目の「メリークリスマス、ミスターローレンス(英語のタイトルでもある)!」ここでは一度目のメリークリスマスと違い「ローレンス、お前が俺を救えない事を許すよ」という意味。

 

 そう、この映画で浮かび上がってくるのは「許し」なんですよね。

 

 確かに、この映画に出て来る登場人物は男性のみで作中に同性愛の空気が濃厚に漂ってはいるもののそれは美しく昇華され、淫猥な物にならず。

 

 「あなたもやっぱり人間だ(トートロジー)」というローレンスの劇中の台詞にもある通り、人間の業が、死によって解放される話なのではないかなと。

 

 最後のハラの笑顔の爽やかさ、美しさ、そして流れる坂本龍一作曲のテーマ曲、やっぱり見返してもいい映画でした\(^o^)/