主人公が「高機能自閉症スペクトラム障害」のベン・アフレック主演のアクション映画の感想です。
監督:キャヴィン・オコナー
主演:ベン・アフレック
<あらすじ>
田舎の会計コンサルタントに大企業から税務調査の依頼が来る。実は彼には、世界中の悪の裏帳簿を仕切る裏社会の掃除屋、腕利きの殺し屋という別の顔があった。
<感想>
今回感想を書くにあたり、主人公が「高機能自閉症スペクトラム障害」である事にこの映画の特徴があります(私もASDだけど、高機能では無いです)
なので、劇中に自閉症特有の挙動や言動をする箇所を赤文字で表示していきます。
冒頭、殺人事件らしき現場からのスタートそこからタイトル「The Accountant(会計士)」
1989年、ハーバー神経科「ソロモン・グランディ」という「マザーグース」の
童謡にある唄が出て来て、パズルをしながらおかしな挙動の子供がいて、唄を歌うのはそれが彼のストレスを緩和するから。
彼が「自分の指を口に持って行き、そこに息を吹きかけたり指でピアノを弾く様な動作をする」のは「自己刺激行動」と呼ばれるもので「指でピアノを弾く様な動作をする」という仕草、私もよくします😅
神経科医の説明で「大きな音や光を嫌がり、シャツの感触やハグが嫌いなのは、敏感だから、近づかれたくないから」
子供の両親が、母親は神経科で過ごさせようと提案するけど父親は「この世界は優しくない」と言い放つ。
子供が急にヒステリーを起こす理由は、彼が遊んでいたパズルのピースが埋まらない為にそうなった。彼は「ひとつの仕事(作業)をやり終えないと気が済まないから」
で、そばにいた女の子(おそらくはADHD)がパズルの最後のピースを探してくれて男の子に渡す。パズルのピースが埋まって完成するけど実は男の子はパズルを裏返しにしていて、表面には「モハメド・アリ」の絵が(発達障害と失語症を抱えていた)
そして現在、ちいさな会計事務所で老夫婦と会計士のクリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)が税金の相談をしている。
ここでの会話で、ウルフは「目をそらす」「言葉通り受け取る」
場面変わって金融犯罪ネットワークの事務所レイモンド・キング(J・K・シモンズ)とメリーベス・メディナ(シンシア・アダイ=ロビンソン)がある人物を捜索するように、メディナはなかば自分の過去をばらされたくない事を引き換えに捜索を強制される。
メディナには人に話せない「裏の顔」があったという描写で「裏の顔」がこの映画のテーマになっています。
また場面は会計事務所に戻って、職場の同僚がウルフを娘に引き合わせようと食事に誘うもウルフは無下に断る、というか相手にはそう受け取られてしまう様な振る舞い(ドアの閉め方)をしてしまう。
帰宅するウルフ、自炊するシーンですがおそらく彼はほとんど毎日同じ食事をしている(型にはまった日常)と思います。食事シーンがボッチで寂しい感じに見えますけど(壁の空いた枠にひとり…)彼にはそれが安心するんです(ナイフやフォークをきっちり揃えるとか)
「定型発達者」には異常と写るシーンですが彼にはあの生活スタイルがしっくりくる。
そして夜の「訓練シーン」は、おそらく父親がそうするようにしつけたんでしょう。
彼の嫌いな音と光をわざと発生させ、脛に嫌いな感触を自分で感じさせるのは「ストレスに慣れさせる為」
場面が過去に切り替わって、ウルフの母親は夫の教育方針(スパルタ教育ですからね)についていけず、またおそらく自分の息子の異常性に耐えられないから子供を捨てて出ていく(定型発達者の弟が中指を立てている)
ストレスを感じてパニくったウルフを、父親がソロモン・グランディの唄で落ち着かせる。
また現在に戻って、税の処理を助けてくれたお礼に老夫婦が庭で射撃をさせてくれるというので、ウルフが「バレットM82」という対物ライフルを撃つシーンで彼が長距離射撃能力(空間把握能力)がある事が明かされ、的にした「表情を描いた果物」を打ち砕くのは、中盤で彼が「高機能自閉症スペクトラム障害」である事を自ら
明かすのですが、それに負けないという意思表示に見えます。
ハーバー神経科に掲示されていた「顔の表情一覧」ですが、おそらく単純化されたイラストで喜怒哀楽の表情ってこういう物なんだよと教育する為のものなんでしょうね👇
ウルフは、自分の倉庫に入り、そこにはトレーラーハウスがあって、中には彼が気に入っている品々が満載されて彼には「収集癖がある」のがわかる。
そして出て来る「ジャクソン・ポロック」の絵画
彼は「抽象表現主義」の代表的な画家です
ここでウルフは過去を回想し、なにやら年配の男から「普通の人が話す声の抑揚」の訓練を受けている。何故ウルフはこんな訓練を受けているのか?
ここは、定型発達者にはわからないでしょうけど非定型発達者は「声に抑揚が無い」「受け答えがおかしい」人がいる(全員では無い)ので「普通の人に見える様に
『擬態(マスキング)』の訓練を受けている」
「信用出来る人間を一人見つけろ、俺に学べ」と諭す年配の男。
おそらく、この年配の男も高機能自閉症スペクトラム障害でウルフが自分と同じ種類の人間なのに気づいたから訓練してあげたんでしょうね。
「信用出来る人間を一人見つけろ」という教えの通りウルフにはどうやら「助手」がいて、現在に戻って仕事を選ぼうとするウルフに「次はどこにしようか」と選ばせる。
ウルフが選んだ仕事は、義肢を作る会社の会計調査この仕事を選んだ理由はおそらく「義肢」という「偽物の器官を製造している」という点に感じる
ところがあったからでしょう。
社長のラマー・ブラックバーン(ジョン・リスゴー)は「金の為にやっている訳ではないんだ」と言うも実は彼にも裏の顔があって、この映画の登場人物は
かなりの割合で裏の顔が有りまくり。
場面が変わって、謎の男が不正を働いた男に焼きを入れるシーンになって、この男が
物語上では敵役になるんですけど、最後には驚きの展開が待っています。
ウルフは仕事を始めようとするけど、そこでそもそも相手先の会社の会計処理のおかしなところに気づいた社員のデイナ・カミングス(アナ・ケンドリック)が、徹夜疲れからかデスクに突っ伏している。
起こそうとするウルフ。本人に触って起こそうとしないのは彼が「人に触れたくない、絡みたくない」から。
ランチでの会話で、デイナが実は美大を目指していたけど、父の意向で会計の仕事について、ローンが有り「父は美術がわからないの、『ポーカーをする犬』とか好きなのと言うのをウルフは「その絵、僕は好きだよ」と返す。
「犬がポーカーをするという不条理さが好きだ」と言い会話を続けるけど、ここで彼は「言葉の”あや”が分からない」のに「わかるふりをする(擬態)」
ここで出て来る「へこんだ水筒」だけど、伏線でもあり彼の能力の凸凹のメタファー。
仕事をするウルフ、そして彼は高機能自閉症スペクトラム障害を持っている人に見られる「高い計算能力」を発揮して明らかにおかしい箇所を発見する。
だがそこから会社のCFOが変死を遂げた事でウルフは仕事を途中で終了させられ、物語が急展開を見せる!
「仕事をやり終えないと気が済まない」ウルフは帰宅するも、ガレージに上手く車を停められずいつもやっているであろう「訓練」も上手くいかない。
どうやらこの仕事には「裏がある(また裏!)」ので前に税務処理をした老夫婦が人質に取られ刺客に襲われるウルフ。
そこで、劇中初めて発揮されるウルフの「ナーメテーター」まずひとりを対物ライフルで仕留めたのち、残りのひとりを「シラット(型や組手を通じて行う格闘技)」という、彼にぴったりの格闘技でそいつもトドメを刺す。
自分が襲われた事で、協力者のデイナの身も危ないと察したウルフは、「助手」の忠告を聞かず自身の「仕事をやり遂げられないストレス」を解消する為w逆襲を開始する。
デイナは、自宅にて案の定襲撃されるもウルフが助けてくれる。
ここの戦闘で、彼は必ず「相手の頭に文字通り一発お見舞いする」ここも「きっちりとしないと気が済まない」というASDあるある。(まあ近接戦闘のお約束でもあるんでしょうね)
デイナが「あなたはなんでそんなに戦闘が上手いの?」と質問するけど、ウルフは質問にちゃんと答えられない。
ここまでが中盤で、そこでようやくウルフは自分の口から「僕は高機能自閉症スペクトラム障害(ASD)なんだ」と明かす。
自閉症の知識を知らないと、ここまでのウルフの挙動がおかしいとは思っていても「なんだこいつ?」くらいにしか思えないので、たぶん定型発達者は1回観て自閉症の
知識を得たのち、もう1回観ないと上手く咀嚼出来ないと思います。
デイナとの会話で「17年で34回の引っ越しをした」と明かすのはウルフが「人との触れ合いを極力避けたい」のと「『擬態』がバレて、自分がASDである事が分かってしまい、迫害される前に自分達(父親が存命中)から人間関係を終わらせていた」から。
このデイナとの会話シーンでちょっといい雰囲気になるけど、ウルフはそれがわからない「相手の感情が読めない」から結構高いホテルに泊まった理由は「タオルが上等だから(肌触りを気にする)」
場面変わってウルフを追うメディナ、彼女はASDを知らない観客の立場で、この映画に迷い込んだ「アリス(映画の中にも出て来る『不思議の国のアリス』)」そして、「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルはASD。
ウルフが使っている偽名は、過去に居た自閉症者この映画は明白な自閉症について言及する映画なのがわかる。
メディナの調査でウルフの正体が判明し分析によると「対話能力が乏しく、目線を合わせない」ここでウルフの正体を探る為に、音声の「周波数(スペクトル)」を調整して彼の声だけを拾うという描写がまた素晴らしい!
ここで冒頭の殺人事件のシーンに戻ってレイモンドが過去にウルフに殺されかけるも自分が父親なので助けられ、本当は平凡な一職員に過ぎなかったのに、ウルフの「助手」から電話を受ける事で今の地位を築いた事を自分から告白し、メディナに「俺の後継者になるんだ」と言う。
それを拒絶するメディナ何故ならそれは自分が「法外の存在になる」事なので到底受け入れられない。
ここでもまたレイモンドにも「裏の顔」があるのが判明。もちろん、ウルフも殺し屋という「裏の顔」が判明し物語がメタ的になっていく。
冒頭の殺人事件は、ウルフが行ったもので彼に「擬態になる」訓練を施したマフィアの会計士がレイモンドの落ち度で死んでしまった敵討ちだった。ウルフには大切な存在のひとりだったんですね。
まだ過去のシーンで、今度は自分を捨てた母が亡くなったので、その葬儀に行くも親族以外は出ていくように言われてモメて、その最中に父親がウルフをかばって射殺された。
母が死んだストレスでパニックになったウルフを、暴れたと勘違いした周りの警官が発砲した事で起きた悲劇。
現在に戻って敵との最終決戦。まず対物ライフルで何人か始末して、相手から
敵がいる建物の情報を聞き出し、室内戦闘になるガンガン敵を倒していくウルフだけど
流石に相手もプロなので、格闘戦になり相手を倒すけど自身も怪我を負う。
そこで負った傷の手当てをしながら「ソロモン・グランディ」を唄い、それを聞いた相手のボス「ブラクストン(ジョン・バーンサル)」がある事に気づいてこう叫ぶ、「兄貴!」と。いままで、過去の回想でウルフの隣にいた弟がブラクストンだった!
いきなり始まる兄弟対決10年ぶりに再会する両者、対決というより「幼子の兄弟喧嘩」みたいになり、結果はウルフの勝ち「お前、強くなったな」とウルフ、イイハナシダナー😅
ブラクストンが守っていた義肢会社の社長をウルフが射殺しちゃうのは「義肢」という「仮初の姿」の否定だと思っていてあくまでもメタ表現なので、ここはあんまり気にしない気にしない…
事態は収拾され、メディナは最後レイモンドの役割を引き継ぐここらへんはなんか「映画の続編へ向けての伏線」に見えちゃいます。
最後、最初の「ハーバー神経科」に戻り話の円環が閉じる。ここで、ASDの男の子(おもちゃを並べている)が。神経科医の娘(最初に出ていたパズルのピースを見つけてくれたあの子)を見つけて(部屋には子供の頃にウルフが完成させたモハメド・アリのパズルが)彼女が超高性能PCを扱え「国防総省にもアクセスできる」凄腕ハッカー(裏の顔!)で、会話をそのPCのデジタル機能で始め「王子様」と男の子に「助手」の声で話しかける。
そう!彼女がウルフの「信用できる一人の人間」でここで「全ての伏線が回収」され「パズルのピースが埋まる!」
デイナの自宅で、デイナが「穴の開いた壁を埋める」というメタ的なシーンを映してからの「ポーカーをする犬」の絵を引っ剝がしてみたら(また裏!)「ジャクソン・ポロック」の絵画が出て来て彼女のローンがおそらく完済され、ウルフがトレーラーハウスを車でひっぱりながら、常に無表情だった彼の唇が笑みを浮かべたかの様になる寸前で映画は終わる(ベン・アフレック演技上手すぎ!)
最後に流れる曲はこちら👇
この映画を観て、自分が定型発達者だと思っている人が主人公の挙動を見て、彼がASDであると告白し「え、俺や私と同じ挙動をしているけど、それってASDなの?それじゃ俺や私ってASDなんだ!」という「気づき」をもたらしてくれるのでは無いかと思います。
お見事という他は無い、ASDという障害がどういうものかを啓蒙する話とエンタメを両立した奇跡の作品、おススメです\(^o^)/