1965年にインドネシアで起こった「9月30日事件」から数十年後に、その加害者にインタビューしたドキュメンタリー映画の感想です。
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
主演:アンワル・コンゴ
Amazonプライム会員なら無料で視聴出来ますが、内容が内容なのでベストコンディションで視聴してください、本当にキツイので。
<感想>
普通ドキュメンタリーってなんらかの事件があって、その被害者にインタビューしたりして構成されるのではないかと思いますが、この映画は内容上それが出来ないんですよね。
インドネシアで1965年に起こった「9月30日事件」で100万人に及ぶ人々が虐殺され、政権が交代しその虐殺の関係者はなんと国の英雄となっている!
上記の理由で虐殺の被害者にインタビューしても、インドネシアの政権が虐殺の加害者側なので妨害を受けてしまい身の危険を感じ、かといって虐殺の加害者に問いただす様な真似をしても、彼らは激怒するかもしくはインタビューを拒否してしまうので、このドキュメンタリーでは加害者である彼らを持ち上げて騙し、彼らに虐殺をした場面を再現してもらうという形式を取っています。
主にアンワル・コンゴさんという、パンチャシラ自警団という、まあチンピラの集まりに所属している人なんですけど、ぱっと見好々爺にしか見えないこのおじいちゃんを撮影しながら進行していき、アンワルさんは国営放送で英雄扱いされていて「これは本当に現実の光景なの?」と目を疑う様なシーンが連続します。
アナウンサー「ここで共産主義者を殺したんですね!」
アンワル「逆らったら皆殺しだよ(観客の笑い声)」
等と、悪夢的光景の連続で「やっぱり地獄はこの世にあるんだ、いや、この世こそが地獄なんだ」と思わずにはいられません。
アンワルさんは終始にこやかに自慢げに虐殺を楽し気に語る。彼はその殺人の詳細を語るけど、自分が人を1000人も殺した事によるPTSDを負っている事もしだいに分かって来る。
で、彼が自分が行った殺人の内容を楽し気に語るので、その場面を再現してもらおうとするけど、そこでアンワルに驚くべき変化が起きます。科学用語で「観察者効果」と呼ばれる言葉があるのですが。
用語の意味として「観察するという行為が観察される現象に変化を与える」となっていて、意味が完全に同じでは無いですがそうとしか言えない様な効果が終盤アンワルに起こります。
自分が過去に行った殺人を、今度はその殺される時の被害者を演じ(カメラはそのシーンを撮影している)その映像を客観視してしまい、彼は自分がそこでやっと何をしでかしたのか、そしてそれは取り返しのつかない事であるのに気づいてしまうんです。
気づいた後にする、彼のある行動がとても見ていられないというか、自分が地獄を生み出してしまっていた、もしくは自分こそが地獄なんだと認識したための物で、目や耳を覆いたくなるんですよね。
<凡庸な悪>
映画の中で
「あの時は仕方が無かったんだよ」
「他の国でもやっている事だろ?」
という自己正当化の台詞が出て来ますが、ここら辺本当にいつの時代でもどこの国でもいつも聞く台詞で、それはつまり条件が揃えば誰でもアンワルになってしまうということなので、だからこそこのドキュメンタリー映画が普遍性を帯びている。
<無数の「ANONYMOUS(匿名)」>
最後、エンドロールで流れる大量の「ANONYMOUS(匿名)」の文字。名前を明かす事がいかに危険であるのかが一発でわかる描写で、エンドロール自体が表現になっているんですよね。
<デヴィ夫人>
9月30日事件が起きた時、その当時の大統領はスカルノ大統領だったのですが、その第三夫人は日本でもお馴染みのデヴィ夫人で、この映画が公開されて夫の汚名がそそがれたと感謝の意を表しています。でも、その事を日本のマスコミは報道しなかったんですけどね。おそらくデヴィ夫人には「タレントさん」で居て欲しい為に報じなかったんでしょう。
これほどの作品にはなかなかお目にかかれない悪夢的光景、視聴前にはくれぐれもコンディションを整えてからにしてください、お気をつけて!