ワニ映画の良作を、私が読んだ脚本や批評の本を参考にして解説してみます。原題の「Crawl」の意味は「クロールで泳ぐ」という意味と「恐怖などで鳥肌が立つ、総毛立つ」という意味のダブルミーニングになっています。
監督:アレクサンドル・アジャ
主演:カヤ・スコデラリオ
👇テレ東の午後のロードショーで見ようと思ったらAmazonPrimeビデオで無料視聴出来たのでそちらで観賞しました。
<あらすじ>
水泳選手のヘイリー・ケラー(カヤ・スコデラリオ)は水泳大会に参加するも入賞を逃してしまう。姉から連絡がありカテゴリー5のハリケーンが接近しているなか、父親と連絡が取れないのでヘイリーに確かめて欲しいとお願いされる。ハリケーンが迫るなか、彼女が父親の家で遭遇したものは……
<解説>
私は素人ですが、私なりにこの映画を脚本家や批評家の本を参考にしながら解説してみます。今回参考にした本は批評家北村紗衣さんの「批評の教室」と、脚本家でスクリプトドクター三宅隆太さんの「スクリプトドクターの脚本教室・初級編」です。
<精読する>
まず、1回観ただけでは映画の内容を咀嚼出来なかったり、気づけない箇所があったりするので映画は最低でも2回観てます。
<共感を持てる主人公か>
主人公のヘイリー・ケラーは水泳の選手で冒頭のシーンで僅差で負けてしまい、その後姉に父親の様子を見て来てとお願いされる。頼まれたら嫌とは言えない性格らしく父親に会いに行くも不在でその家の中には彼女が取ったと思われるトロフィーや思い出の写真等が有り、回想が差しはさまれて彼女のプロフィールが分かり、好感の持てる人物である事が分かり、家の中に飲みかけのアルコールと抗うつ剤らしき薬があって父親のコンディションは良くない感じで登場人物の「顔が見え」共感を持てる訳ですね。
<主人公を追い込む事で物語の推進力を高める>
この映画のシチュエーションが、カテゴリー5のハリケーンが迫って来ていて、いつ洪水が起こってもおかしくは無く、ケラーは父親がいると思われる実家の地下に行くとそこで瀕死の父親と再会する。何があったのかと思ったらハリケーンの影響でワニが地下に流れ込んで来ていた!スマホを落として拾いに行くけどワニに脚を噛まれて引きずられ、怪我を負いスマホも破壊されて通信手段を失う。そして地下にラジオがわかりやすく日差しが当たってハリケーンの進行状況を伝えている。
なんとかならないかと外を見たら、ハリケーンのドサマギでコンビニのATMを盗もうとしている家族を発見し彼らに助けてもらおうとする。この強盗家族、生い立ちが分からないし盗みも働いているので観客としては共感を呼ばないので、彼らはあっさりとワニに喰われる。ここでケラーと父親には助けが来ない事が強調されて追い込まれる。
なんとか地下から脱出しようと蓋を開けようとしたら虫にまとわりつかれてケラーはウンザリし、さらに蓋の上に何かが乗っかていて開かず、意地悪なほどに主人公は追い込まれる。さらに畳みかける様に警察(姉の元彼)が助けに来てくれるけど、ここでもやっぱりワニにモグモグされちゃってとにかく主人公たちを追い詰める事で物語の推進力は高まる。
<反転攻勢>
ここまででケラーは外部からの助けを求めていたけど、どうもそれは叶わないみたいなので自分達でなんとかしなければならないと気づく。父親との確執もあるけど、父と話し合って和解し、強盗が持っていたボートまで得意の泳ぎを駆使して「殻を破る」
<殻を破る>
「殻を破る」というのは、自分の思い込みという「自動思考」や「思考のクセ」の事で、ケラーは自分の水泳の能力に限界を感じているけど、彼女はめちゃめちゃ追い込まれた状況にあり主体的に行動し始めているので、その思い込みを打ち破ってワニと泳ぎで競争して勝利しボートにたどり着く。
<チェーホフの銃>
「チェーホフの銃」とは、ロシアの劇作家アントン・チェーホフが作劇術の技法として使った概念で、作中で登場するものにはすべて必然性がなければならないということを表していて、この映画だとケラーが父のいるコンドミニアムに行く際に自分の車の中にジョーズのキャラグッズと思しき物が写されるのはこれからの展開の暗示で、元実家に行きその中と周辺が写されるのは、この映画の舞台がそこだけの限定された空間である事を観客に告げているという事。
犬のシュガーは可愛いワンちゃんですが、この子が喰われたりしないかという観客の恐怖を演出する為の道具だったり、地下に降り途中工具のドライバーが写されるのもこの後でワニを撃退する際に使用する物である事が示唆されている。そして最後、父親の右腕が喰われたりケラーがデスローリング(ワニが獲物をくわえて回転し、トドメを刺す行為)されながらも、父のいる家に向かう途中警察が車の誘導の為に使用していた発煙筒を使って難を逃れるのもすべて作中に出て来る物に意味があった事に気付かされる。
<最後に>
ワニを撃退し、ハリケーンによる洪水も乗り越え、発煙筒で救助も呼ぶことが出来て映画はハッピーエンドですが、彼女手と脚を怪我しているので水泳選手としての生命は問題ないのか?とか、親父は右腕を食いちぎられていたりして正直何度か死んでいてもおかしくなくて、いくらなんでもタフ過ぎやしないかとか若干気になりますが、製作にサム・ライミの名前があるのでそこらへんはご愛敬ですね。
1時間27分という尺で、モンスターパニック映画と災害パニックと父と娘の確執の解消をキッチリと見せる手腕は驚く他無く、楽しませて貰いました、お見事です!