漫画家でエッセイストの卯月妙子さんが、自身の人生を描いた漫画の感想です。
<感想>
なんというか、こんな事を書くと
「お前はこの漫画のいったいどこを見ているんだ!」
と、怒られるのかも知れませんが
「羨ましいな」
っていうのが読了後の感想でした。
作者の卯月妙子さんは、子供の頃から重度の発達障害を持っていて、幻覚や幻聴に悩まされ、自殺未遂をしたり統合失調症にもなっていたり、それはまあすごい生きづらさを抱えているんですけど、卯月さんが自身の生きざまを漫画で表現する際に絵柄が写実的では無い事もあってか、思わず漫画を読むのを止めてしまうという事にはなりませんでした。
まず冒頭、卯月さんがいきなり歩道橋から飛び降りる(!)という衝撃のシーンから始まって、そこからそこにいたるまでのいきさつが語られます。
25歳年上の、後に夫になる男性「ボビー」と卯月さんから交際を申し込み同性。同居生活が始まるのですが、前の夫との過酷な過去も語られたり、ボビーもボビーで3度の結婚と離婚をしていて会社の新年会のビデオでなんかちょっとおっかない人たちが参加しているのが見つかったりしてちょっとビクッとなるけど、卯月さんの事を愛してくれていて彼女の全てを受け入れている。
でも、卯月さんが薬を飲み忘れた事であるトラブルが起こり、その結果冒頭の出来事が発生、卯月さんは一命を取り留めるもかなりの重傷を負い、入院する事になる。そこから入院生活が描かれるのですが、卯月さんの幻覚や幻聴もあってここはホラー映画を観ている感じになるんですよね。この漫画を読む前にホラー映画の祖と言われている「カリガリ博士」を観ていた事もあって、何が現実でそうじゃないのか分からない様な描写にちょっと引きずられそうになりました。
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顔面から飛び降りたので、彼女は以前は容姿に優れていたそうだけど、右目を失明し顔の左右のバランスもおかしくなる。なんとか治療も終わり退院し、ボビーの元に帰るのですがボビーは彼女を見捨てることも無く愛してくれたり、なんかいろいろと私的には非現実的過ぎてフィクションを見ているんじゃないかと錯覚しちゃいます。
漫画の後ろの方に「現在の処方箋(1日分)」とあるんですけど、彼女は1日15種類もの薬を飲んでいて、本当に想像を絶する人生を送っているんだなと感じましたけど、私が羨ましいなと思ったのは、彼女の母親とボビーが卯月さんを本当に愛してくれていて母親の
「ただただ生きててほしかった」
という台詞にもある様に、周りの人の愛があるので安心して見られるんですよね。親に愛情が無かったらおそらく人間扱いされない様な劣悪な環境の施設に一生ぶち込まれていたんじゃないかと思うんですよ。
私が感想の最初で
「羨ましいな」
と書いたのはそういう事です。私が今まで生きて来て愛されたと実感できたのは、昔飼っていた犬から受けた愛情だけでしたので、人から愛された経験が無い身からすれば本当に羨ましいんです。
漫画のタイトルが「人間仮免中」と、若干自己卑下しているみたいですけど、読んでいる私がこの漫画の中で人の愛を見せつけられて
「私の方が仮免中、いや免許取れていないんじゃないか?」
と落ち込みましたね。